2012年6月13日水曜日

母のキヤンパ


古い鉄鍋がある。
鋳鉄かと思っていたら、磁石がくっつかない。
どうやらアルミ合金製らしい。
戦後間もないころ使われていたパン焼き鍋だ。
直径約20センチ。中央部に煙突状のトンネルがある。
鍋の中に熱風をまんべんなく回すための工夫のようだ。
戦後の食糧不足の時代、支給品のトウモロコシや小麦粉でパンを焼くのに使われていたという。
焼きあがるとドーナツ状になる。

うちでの愛称は「キヤンパ」だ。
実はこの鉄鍋はうちとしては2代目だ。
数年前、となりまちのリサイクル店で見つけて購入した。

初代は実家にある。
亡き母の嫁入り道具だったのだ。
初代は蓋に「キヤンパ」と大きく書いてあった。
右から読むと「パンヤキ」だ。

このキヤンパ、我が家では焼き芋鍋として使われていた。
この鍋にサツマイモを入れ、ガスコンロに弱火でかける。
しばらくすると香ばしい香りがして、ほっかほかの焼き芋が出来上がる。
飴状になったところもあって、市販の焼き芋に劣らないうまさになる。
小学生のころ、母がおやつによく焼いてくれたものだった。

焼き芋は父も好きだった。
鹿児島育ちで戦後にカライモは食べ飽きているはずなのに、いまだに好物なのだ。

ぼくが仕事を始めて数年後に母が亡くなった。
結婚したときに実家からこっそりキヤンパを持ち出した。
あのサツマイモのうまさを忘れられなかったのだ。

数年経って、キヤンパが無くなったことに気付いた父が「焼きイモ鍋を返してくれ」と言ってきた。

あんまり使っていなかったのでやむを得ずに返却した。
その後、リサイクル屋で見つけ、買ったのだ。
一つ500円くらいだったか。
しばらく家にディスプレイとして飾られていた。

最近では「タミさんのパン焼き器」という南部鉄器での復刻品が新品で買える。
商品説明では「戦後、日本中に普及していたジュラルミン製のパン焼き器を南部鉄で復元」とある。

ジュラルミン製というのに驚く。
軍需品の生産が終わり、余った材料を民生品に回したのかもしれない。

先日のGWキャンプに持って行った。
ダッチオーブン替わりに使ってみようと思ったのだ。

牛肉のブロックを、すりおろしタマネギなどの液に漬けて一晩寝かせ、焼いてみた。
煙突があるせいで、食材を入れるのに苦労するが、上火替わりの熱風がいい感じに肉を焼き上げてくれた。
ちょっと鍋は焦げ付いたが、うまいローストビーフができた。
息子も大喜びで、500グラム強の肉はあっという間になくなった。

今も正直なところダッチオーブンがほしいのだが、貧乏キャンパーなので、優先順位により後回しになっている。
なので我慢して使っている。

まもなく息子の誕生日。メインディッシュはキヤンパオーブンでのローストビーフの予定だ。
キャンパーにキヤンパ。結構お似合いかも。






0 件のコメント:

コメントを投稿