午後4時半、166キロ地点。
まだ50キロ以上走らないといけない。
しかも大部分が、西中国山地の核心部ともいえる山岳地域だ。
通常なら国道488号をそのまま進み、裏匹見というとんでもないところを走ると、吉和に抜けられる。
だが、この道は落石がひどく、通行止めになって久しい。
そこで今回はOKB師匠おすすめの三坂八郎林道を走る。
初めての道だ。
匹見の集落を離れ、県道42号を紙祖川沿いにさかのぼる。
日が傾き始めた。
場所によっては完全に日陰になる。
気ばかり急くけど、体はゆっくりしたがる。
売り切れ状態の足は勢いよく回されたり、力強く踏まれたりすることを拒否している。
お二人はいいペースでくつわを並べて先行している。
わしはマイペースでいかせてもらいます。
ブレーキになっちゃったね。すんません。
申し訳ない気持ちと寂しさが胸を満たす。
でも、足を回すしかない。
前を向いて進むしかない。
だれも迎えに来てはくれないから。
かつて渓流釣りで訪れたことのある道を今は自転車で走っている。
いい渓流だ。
釣れた記憶はないけどね。
道は思い出したように、やたら立派なトンネルがあったりする。
トンネルは走っていると、センサーでもあるのか、天井のライトが付く。
なんか無駄に金を使っている感満載。
周囲がちょっと開けてきた。
小さな集落だ。
先が見通せるけど、先には誰も見えない。
約10キロ走って、林道入り口に架かる橋に着いた。
お二人が待っている姿がシルエットで見える。
お待たせでした。
時間は午後5時過ぎ。
いよいよ本日のラスボス三坂八郎さんのオンステージである。
ほぼ1車線の林道は、それなりに荒れていてるが、舗装はしっかりしているので、ロードで十分走れる。
入り口付近の標高は約490メートル。
ピークは1000メートルを超す。
延々上ること7キロ、標高差500メートルを超すヒルクライムである。
170キロ走ってきた足には実に応える。
二人の姿はすぐに、道の先に吸い込まれていった。
わし一人淡々と上る。
聞こえるのは、渓流のせせらぎ、鳥の歌、木々のざわめき。
わしの呼吸音、チェーンの音。
上り始めてから15分たったころ。
それは突然に降臨した。
ビキッ。
電撃が走る。
足の筋肉が固まる。
そう、ここ最近すっかりおなじみになった足つり神様である。
足が動かない。
シューズをペダルから外して足をつく。
例の漢方を服用し、しばし休む。
レッグカバーが塩を吹いている。
結構、上ってきたな。
でも、まだ坂道は続いている。
走らなきゃ。
再び漕ぎ始める。
足に負担をかけないように、ゆっくりと回していく。
10分ほど進んだか。
ビキッ!
また来た!
またつった!
2回目来ました!
また足を着く。
連続して漢方飲んでもあかんし。
休んでいても、しょうがない。
少しでも前進しよう。
歩いているうちに足も回復するだろう。
つった足を引きずって、ウノさんを押す。
5分ぐらい進んだか。
再びウノさんにまたがり、ゆっくりと走り出す。
歩くよりは速い。
8分ほど上ったところで。
ビキっ!
3回目いただきました!
またまた押し歩きである。
ゆるゆるとウノさんを押し歩いていると、珍しく軽自動車が上ってきた。
若い男性が「山越えるんですか?大丈夫ですか」と心配そうに聞いてくれる。
心遣いがありがたいなあ。素直にうれしい。
足はつるけど、心はまだくじけていない。
「ありがとう。前に二人ほどいるので、ゆっくり上ります、と伝えてください」と伝言をお願いした。
「分かりました」とさわやかに去っていく彼。
なんか元気もらったよ。
またウノさんにまたがり、進み始める。
またまた8分ほど進み、傾斜がきつくなってきたところで、またビキっ!
これで4回目。
もうわしボロボロだわ。
心に元気をもらっても、体は言うことを聞かないか。
3分ほど押し歩きして、またウノさんに乗る。
と、頭上から「お~~~い、あと少し~~」という声が。
振り仰ぐと、右手のはるか上のほうで手を振っている二人の姿が。
「あそこまで上るのか」と、半分げんなりしながら、やる気も出る。
最後の力を振り絞り、最後の坂を上る。
二人が見えた。
最後だけ頑張ってダンシングして気張る。(心の中だけ)
着いた~~~。
標高1000メートルオーバー。
三坂八郎林道のピークである。
出し切った~~。
普段はピークでも休まず走る派だけど。
もう、だめ。
思わず寝ころぶ。
つかれたわ~~。
足の緊張感がなくなったので、またビキビキとつりそうになる。
起き上がるのも一苦労である。
お二人様、本当にお待たせしました。
ちなみに先ほどの若者に託したメッセージは無事二人のもとに届いたようで。
どうもありがとうございました!
広島県側へ抜けるトンネルを前にポーズ。
そしてどうですか。
出し切った男のさわやかな表情は。
午後6時過ぎ。
日が落ちてきた。
今からは吉和へのダウンヒル。
わしはウインドブレーカーを羽織った。
これは正解だったな。
真っ暗なトンネルを抜け、県境を越えると広島県。
吉和の中津谷川の上流に出るのだ。
薄暗くなってきた林道を快調に飛ばす。
三坂八郎林道から八郎川沿いに出る。
八郎杉で知られる植林地帯だ。
渓流には倒木がバタバタと倒れ込んでいる。
台風とかで倒れたのかな。
これは釣りづらそうだなあ。
日が沈んだ谷筋。
空気が冷え込んできた。
山の気候は違うわ。
八郎川から中津谷川の本流に出合う。
国道とは名ばかりの酷道488号に出た。
中津谷川に沿って、吉和へ下っていく。
この道は、路面に細かい落石が多い。
風化した花こう岩なので、端がとがっている。
下手に踏むと、一発サイドカットでパンクである。
さらに山際から染み出した水で、路面が濡れている。
いつもより慎重に路面を選びながら走る。
渓流釣りで何度も通った道なので、風景に見覚えがあるのが安心材料だ。
ただロードバイクでは初めて。
車とは違って路面状況によりシビアになる。
毛バリ釣り専用区のある小川川の出合いを過ぎる。
左岸から右岸へ橋を渡る。
植林の森の中を通る。
道が2車線になり、周囲が明るくなる。
ようやく吉和に着いた。
空気がむわっと暖かさを増す。
国道186号に合流した。
お二人とも合流する。
上着なしなので寒かったようでした。
三坂八郎トンネルから延々と13キロ、実に30分以上下り続けたことになる。
上りもハードだが、下りもハード。
三坂八郎さんは実にラスボスにふさわしい巨人であった。
参りました。
吉和のまちへ下っていく。
後は戸河内までほぼ下りだ。
吉和ICから小さな上り返しがある。
ピークを過ぎた。
筒賀へ下る。
ここで、うちのGPSサイコンが、電池がなくなったと文句を言い始めた。
CATEYEのステルス50という機種だが、電池の持ちが悪いのが弱点なのだ。
休憩時にモバイルバッテリーで継ぎ足し充電したきたのだが、不十分だった。
もうこの子いやだ。
道端に止まって、5分ばかり緊急充電する。
どうにか使えそうになったので、再び下り出す。
辺りはすっかり薄暗くなっている。
2灯付けフロントライトが闇を切り裂く。
顔に虫がバシバシとぶつかる。
夕方だからね。
一番、羽化する時間だ。
最近使い始めたオークリーのFLAKジャケットのおかげで、目は大丈夫と思っていたら、しつこい奴が右目の中に。
えええい、うっとうしい。
しばしばやっていたら、涙とともに流れ出たようだ。
違和感がなくなった。
吉和から延々下り続けてこれまた約30分。
午後7時半。
ようやく戸河内に戻ってこれた。
疲れたよ。
セブンイレブンの前でお二人が手を振っている。
お待たせしました!
コーヒー飲んで一服。うまいっ。
計218キロ、12時間の旅。
自分にとって実にハードで、実にチャレンジングな旅だった。
剛脚の二人の走りを、間近で見られたのも大きな収穫だった。
ただ途中でちぎれてしまって、最後まで付いていけなかったのが残念で悔しくて、本当に申し訳なかったです。
足、引っぱちゃいましたね。
次はついていけるように・・・と簡単には言えないのがつらいところだが(^_^;)
ただ、5月7日の浜田往還、15日の石見グランフォンド、21日のミコトイカと、3週続けて200キロオーバーを走れたのも、ちょっとした自信につながった。
2年前に初めて浜田往還を走った夜は、食事が満足にのどを通らなかったが、最近はそんなこともなくなった。
200キロを走る体が徐々にできてきたということか。
その割には毎回、足をつっている現実もあるわけだが。
相棒のケーキさんからは「ようOKBさんらと走る気になったね」とあきられたけど、でもやってみたかったんだもん。
OKBさん、キャニオンさん、楽しい一日を本当にありがとうございました。
これに懲りずにまた一緒に走ってやってくださいませ。
というわけで本日の一句。
イカからの 三坂八郎 ゲッソりで
お粗末でした。
さあ、次はどこへ走ろうか。
おわり。