粕淵を立つ。
そう。ここから本当の闘いが始まるのだ。
今まで得してきた7キロの意味も本当にわかるのだ。
そう、本当に。
粕淵を出て、橋を渡る。
例年なら真っすぐ行くところを右折する。
そう。
あえて遠回りするのだ。
町の中を走る。
そして、昨日下見したあの道を目指すのだ。
だらだらとした上りが続く。
これは地味にきつい。
先に何があるのかを知っているだけに、余計たちが悪い。
粕淵から8キロ。
右手に千福の看板が見えた。
左折する。
おいちゃんがこっちこいと誘導する。
「千原温泉」の方へ進む。
林道湯谷上山線であーる。
沿道の家の縁側から応援の声が飛ぶ。
ありがとうございました!
もうひと踏ん張り頑張ります!
最初にちょっと上って、しばらくは緩やか。
千原温泉への分岐点はもちろん温泉側は選ばない。
きつい左の道を選ぶ。
そしていよいよ核心部だ。
傾斜が増す。
地獄が始まる。
10%を超すという坂が続く。
終わらない。
しんどい。
ギアはインローの34-30Tに落ちたまま。
速度は出せないが、じわじわと上がれる。
這うように上る。
道は荒れているが、速度が極めてゆっくりなので、小石はよけられる。
これが2キロ近く続くんだよ。
勘弁してくれよ。
ケーキさんはダンシングでじわじわと進む。
わしよりも重い28のギアなのにすごいな。
次第に離される。
待って・・・。
這うように上るわしを、もう少し速い人が追い越す。
追いつけない。
女性にも抜かされる。
脚は付きたくない。
頑張る。
時折、押し歩きをしている人もいる。
カーブで休んでいる人もいる。
この激坂を前にした人類にとっては、どちらも正しい選択である。
顔を上げて前を見る。
傾斜は緩むことなく、山肌を龍が天に上るように道が続く。
当然、写真は撮れない。
カメラを手にすると、バランスが崩れる。コケる。
なので、写真は前日撮影のものもあります。
永遠かと思われた時間も、終わるときは来る。
傾斜が緩くなった。
右手に滝が見えた。
下見の通りだ。
ようやく一息つく。
ケーキさんの姿は見えない。
景色が開けた。
十字路を左折する。
油断はできない。
まだ上りは続く。
先刻ほどではないが、相変わらず10%の坂が普通に現れる。
おや、かなり先にケーキさんが見える。
これはもう少し走れば、追いつけるかも。
そんなことを考えながら、進む。
ビキッ!
右足が固まりそうになる。
ゆっくりでも動かそうとするが、固まってしまう。
足が別の意思を持った生き物のように、言うことを聞かない。
やば、つった。
だめだ。このままだと、こける。
左足を外し、足を付く。
道路わきに寄って、休む。
足つりには慎重を期していたつもりだったが、ダメだったか。
お約束の漢方を飲む。
これで少しは足が動くだろう。
走り出す。
なんとか足は回る。
できるだけ足に負担をかけないように回していく。
追いつくのは無理だけど、待たせたら悪いしな。
敗残兵は、ただのたのたと進むだけだ。
おう、三瓶の山塊が見えてきた。
無駄にきれいな、誰もいない展望台を過ぎる。
ここからダウンヒル。
一気に三瓶の懐に飛び込む。
田園の中を突っ切る。
前日の写真です |
三叉路を右折する。
いつもの三瓶に上る道に出た。
ちょっと上がると、三瓶温泉への分かれ道で、信号がある。
ケーキさんが待っていた。お待たせ。
ここでうれしいプレゼント。
道案内の人たちが私設エイドを構えていてくれたのだ。
ありがたく、コーラをいただく。うまいなあ。うれしいなあ。
もうちょっと頑張る気力がわきましたよ。
温泉へのきつい坂をケーキさんと二人淡々と上る。
きのう入浴した鶴の湯を横目で見る。
いま入ったら最高に気持ちいいやろな~。
体中塩塩じゃもんなあ。
とも思うけど、先を急ごうか。
消防署の前を過ぎ、国民宿舎の前を過ぎると、信号がある三叉路に。
ようやく一息つける。
森の中の道を抜けて、西の原がキター!
この解放感、素晴らしい。
何回来ても、そのたびに感動する。
しかも毎回、いい天気。
素晴らしい。
なんていいやつなんだ、三瓶。
まあ、坂はえげつないけどな。
自転車を止め、二人で記念撮影。
うおおおおお、やったぜええええええ。
雄叫びを上げるオヤジ二人。
だれだ、双子だなんて言ってるやつはww
だが、もう少しある。
最後の北の原へ上る坂が待っている。
さ、行こう。
今年もこの坂が迎えてくれた。
絶望も希望もなく、ただ足を回すだけ。
足を回せば、前に進む。
坂を上りきれる。
だらだらとした坂が続く。
先が見える坂って本当に意地悪だと思う。
実に疲れる。
でも、この坂も終わりが近づいてきた。
道端のサポートバイクが「もう少しです」と励ましてくれる。
そう、わしも景色を覚えている。あと少しだ。
上りきった!
なんとか。
胸いっぱいの安心を載せて、北の原の三瓶バーガー前の第7CPに滑り込む。
181キロ地点。
時間は午後4時56分ごろ。
調べたら、昨年とほぼ同じだった(^_^;)
結局、7キロ分の貯金は見事にどこかに回収されたのだった。
ケーキさんもまもなく到着。
おやつのヨーグルトをいただく。
喜びのポーズを決めるわしら。
ハルーさんとも合流する。
女性2人も一緒だとは、すごすぎます。
一緒に喜びの舞。何やってんだか。
ウインドブレーカーを羽織って、さあ、下りましょう。
ひたすら重力に身を任せるだけのダウンヒル。
楽しいよねえ。
ただこの日は夕刻から強くなった南風のせいで、気を使った。
暴れる風に負けないようにハンドルをしっかり握る。
それにケーキさんから「ゆっくり行ってください」と念押しされていたし。
慎重に下りていく。
風は強いが、そこまで気温は下がっていない。
位置エネルギーを一気に消費したな。
ダム湖の横を通り、川沿いの快走路を夕暮れの大田へと向かう。
この風景を見ると、「帰ってきた」と思う。
縁もゆかりもない土地だが、この3年間で親しみを持つようになった。
この石見GFがなければ、抱くことのなかった感情だ。
ケーキさんといいペースで走っていく。
街中を抜け、ゴールの久手海水浴場へ向かう。
わしらの後ろに列車ができているみたいだが、もう気にならない。
自分のペースで行けばいいだけだ。
この後に及んで、人の後ろなんていやだろ?
久手海水浴場が近づいた。
あそこを左折すればいいだけだ。
12時間半前に出発した青いゲートをくぐる。
終わった。旅が。
ゴールで到着のサインをする。
完走証の小さなステッカーをもらう。
午後5時50分。
走行距離は202キロ。
会場では神楽が上演されていて、子どもたちがかぶりつきで八岐大蛇の退治シーンを楽しんでいた。
田舎の祭りは神楽に尽きるね!
締めのそうめんをすする。
やりましたね。
勝ち誇る二人のオヤジ。
足をつりながらも、二人で完走するという目的は果たした。
ken2さん抜きでも、やり抜きましたよ。
昨年一緒に走ったウメさんも戻ってきた。
お疲れ様です。
日が沈む。
楽しくつらかった一日が終わる。
本当に一日よく遊んだ。
きょう一日に悔いはない。
いい一日だった。
また明日から頑張ろう。
石見GFを企画、運営したサイクリストビューのみなさま、お世話になりました。
応援してくれた沿道のみなさま、力をいっぱいもらいました。
一緒に走ってくれたみなさま、非常に助かりました。
わしたちの成分の大半は感謝でできています(^.^)
ともあれ、一つの旅は終わった。
まだ道はいたるところにある。
さあ、次はどこへ走ろうか。
おわり。
追伸
帰路、立ち寄った三瓶温泉国民宿舎さんべ荘の露天風呂、最高でした。
ぬるめの源泉かけ流しで、そのまま宿泊したいクオリティでした。
おすすめです!
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